「平安大廈」。
五十年も前、「日本の少年」の私が油麻地に聳え立つ建物を見たとき、その巨大さに圧倒されたことを今でもよく覚えている。幾千幾万とゆう人間が中にひしめき合っているであろう巨大構造物。五十年も前、たった一度だけそこの中に住む父の友達の家に招待されたことがあった。その中は日本人がよく魔窟などと軽薄に形容した当時の「九龍城塞」と全く似た、猥雑な空間がそこにあった。今にしてみれば、こうした失われた過去こそ香港の真髄であり、この都市固有の魔性の魅力であったのかもしれない。当時外壁は白塗りで、外に大きく「平安大廈」と黒く太い文字で書いてあった、場所を間違うはずがない。だがいつの日からか、外壁は今の派手なオレンジ色に塗り替えられ、その俗っぽさはさらに増大された。
またあの頃は、このビルの斜め右側に「普慶戯院」とゆう中共のプロパガンダ映画を専門的に上映する映画館があった。幼い頃、私の中国人の父が中国大陸の映画を観によく連れていってくれた。私の幼少期の左派思想の原点的教育はそうして育成された。後悔はしていない。
だから、この「平安大廈」を見るときいつも私はその連想から逃れることができない。
このビルがあと百年持ちこたえてくれたらその時は重要文化財。
廖中仁 Liau Chung Ren
2022, 8.19
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